「2月25日 箱根用水完成の日」
■はじめに
「箱根用水」は「かんがい施設遺産」に登録されたのを機に、「深良用水」と正式名が変わっていますが、本稿は名の通った「箱根」にこだわって、「箱根用水」として筆を進めることにします。
目 次
箱根用水完成の日とは
1670(寛文10)年2月25日、芦ノ湖と駿河国駿東郡深良村(現静岡県裾野市)を結ぶ箱根用水が完成し、これを記念して2月25日は「箱根用水完成の日」とされています。
この箱根用水は農水省の疎水百選に選定され、2014(平成26)年には国際かんがい排水委員会が、かんがい施設遺産に登録しています。
■箱根用水完成の日の意味と由来
駿東地域(現在の御殿場市、裾野市、長泉町、清水町に相当)の水田用水不足解消のため、浅草の商人友野与左右衛門、深良村名主の大庭源之丞が協力し、4年の歳月と7400両の総工費、延べ84万人を投入して、箱根の外輪山湖尻峠直下に全長1280m、高低差10mのトンネルを完成させました。
寛文10年と言えば4代将軍徳川家綱の時代で、総工費の7400両は現在の50~60億円に相当しますが、当時の資料はほとんど残っておらず、工事期間も3年半説、4年説、5年説とバラバラで判断がつきかねるため、4年としたのは筆者のテキトーな折衷案です。
江戸時代なので詳細な資料や設計図、工事日誌などはあって当然と思いますが、当時の土木技術は秘伝とされていたため、あえて記録しなかったとする説が有力です。
それにしても、GPSやシールド工法もない時代、両側から1280mを手掘りで、しかもトンネル入り口と出口の落差10mが必要であり、それには平均勾配130分の1を保って掘り進まなくてはなりません。
その難条件にもかかわらず、中央の合流点に横のズレはなく、高低の差はわずか1mで、これも水流に勢いをつけるため意図したものだという心優しい見方をする研究者もいますね。
箱根用水は今も生活、かんがい、防火、水力発電用水として利用されています。
■箱根用水完成の日のイベント
2020年、箱根用水は通水350周年を迎えます。
箱根用水を運営する県芦湖水利組合と裾野市は、この350周年を記念し、今ひとつ知名度が上がらない箱根用水をアピールしようと、いくつかの記念行事を計画しています。
その目玉として検討されているイベントが、関係者以外立ち入り禁止になっているトンネル内の点検に、一般の同行、見学を募集しようというプランです。
実施予定は4月25日で、なぜこの日かと言うと、「通水記念日」なんだそうです。
箱根用水完成の日の雑学
▽難工事、完成後に友野と大庭は「消された」?
友野と大庭による箱根用水建設計画ができ上がってから着工までに3年を要しています。
これは芦ノ湖の水利権を持つ箱根権現や、幕府との折衝に時間がかかったためと思われます。
工事は江戸時代初期の鉱山開発の技術が応用されたと見られ、トンネル内の壁にはクモの巣状の跡があることから「甲州流」という技術説を支持する研究者が多いと聞きます。
しかし、ノミとツルハシの手掘りで効率は悪く、おまけに崩落や湧水も頻発したことで、多くの犠牲者が出たことは想像に難くありません。
この難工事で資金も枯渇気味になったうえに、箱根の関所の真下にトンネルを掘るなどもってのほかと言う役人も現れたようで、完成したのが不思議なほど苦労の連続だったと言います。
そうした末の完成の喜びもつかの間、友野と大庭の消息が絶たれてしまい、幕府がトンネル工事技術が広まることを恐れ、工事の詳細を知る2人を「消した」のではないかとウワサされました。
東映時代劇にありそうな展開ですが、2人はその後も姿を現すことはありませんでした。
▽琵琶湖疎水
箱根用水のように意図して建設された国内の水路の中で、最も有名なのは琵琶湖と京都を結ぶ「琵琶湖疎水」です。
明治維新で衰退した京都を、琵琶湖から水を引き、その水力で産業を起こして盛り返そうと建設されたのが琵琶湖疎水です。
5年の難工事の末、1890(明治23)年に完成し、日本初の事業用水力発電所が工場に電力を供給、大津と大阪間の海運、寺社の防火用水、生活水などに利用されました。
総延長は約30.5km、船の行き来のためトンネルも大きく、琵琶湖に向かう船は急な上り勾配もあるため、インクラインという船を台車に載せて引き上げる設備が設けられていました。
現在は毎年、春と秋には観光船が運行され、多くの観光客を楽しませています。
■最後に
これだけの大工事、詳細な記録をだれも残していないとは、ちょっと信じ難いことです。
ひょっとすると、旧家の蔵や戸棚の奥深くに、ご先祖様の古文書として眠っているのかもしれません。
運良く見つかっても、今度は運悪く、見つけた人が古文書の価値に理解がなければ、燃えるゴミの日に出されてしまいます。
最近はそうした運の悪さが目立つと研究者は嘆いており、筆者は貴重な古文書が日の目を見られるようにと願っています。
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