「6月18日 海外移住の日」
■はじめに
芸術の都パリで優雅に暮らしたい、シリコンバレーで能力を試したい…そんな移住なんかじゃありません。
一家の命をかけた決死の片道切符の話です。
目 次
海外移住の日とは
1908(明治41)年6月18日、本格的な海外移住の第一陣として、ブラジル移民158家族、781人が笠戸丸でサントス港に到着しました。
「海外移住の日」はこの日を記念したもので、1966(昭和41)年に総理府(現内閣府)と国際協力事業団(現JICA)移住事業部が制定しました。
「日本から海外各地へ移住した人々の歴史や、国際社会への貢献などを振り返り、日本と移住先国との友好関係を促進するため」という趣旨ですが、日本からの集団移住はすでに昔の出来事として風化しつつあって、むしろ受け入れ国として、この趣旨を活かしてほしいと思います。
■海外移住の日の意味と由来
このブラジル移住は政府の国策移住方針の大掛かりなものでしたが、それ以前の明治元年には、ハワイへ120人が農業移住していて、これが日本人初の海外移住となります。
これを先例として政府は、文明開化途上で生活苦にあえぐ農民の活路を海外に求め、また海外の農業国が多くの労働力を必要としていた時代でもあったため、双方の利害が一致、以後、大移住時代を迎えることになります。
第2次大戦終結までの海外移住は、北米、ハワイ、中南米へそれぞれ20万人、樺太28万人、中国27万人に及んでいますが、これはすべてが国策移住への応募者で、個人で海外移住できる時代ではありませんでした。
このブラジル移住のころには、日本人移住者の低賃金がアメリカ人の職を奪っているとして、日本人排斥運動が起きており、移民に関する日米の紳士協定が結ばれたこともあって、移住先がブラジルに選定されたようです。
一行は4月28日に神戸を出航し、シンガポール、ケープタウンを経由し50日かけてサントス港に到着しましたが、あろうことかブラジルはコーヒーの凶作で、希望に燃えてどころか、いきなり塗炭の苦しみを味わうことになりました。
しかし、国同士が契約した事業なので、勝手に帰ってくることはできず、政府も労働環境の過酷さは承知していたと見え、1家族3人以上の働き手という条件もつけており、ひとりで逃げ出さないよう手は打っていました。
「さあ行かう 一家をあげて 南米へ」
これは当時のキャッチコピーのひとつで、1文字旧仮名遣いがありますね。
■海外移住の日のイベント
時代とともに、JICAの集団移住人材斡旋業的使命も終えたようで、今は海外協力隊派遣、国際緊急援助、国際資金協力や発展途上国の貧困対策から防災、栄養、感染症、気候変動、ジェンダーまで、あらゆる課題解決に事業は転換しています。
こうもあれこれ手を広げられて、ブラジル移民はとうに忘れ去られたかと思っていましたが、感心なことにJICA横浜の史料館が2016年の当日、「海外移住の日」を記念したイベントを開催していました。
これは移住者募集用に制作された当時の映像3本の上映会と、ブラジルコーヒーvsコロンビアコーヒーの飲み比べという気の利いた催しでした。
また2018年には、ハワイ移住150周年記念企画展示が、これもJICA横浜の海外移住史料館で開催され、ハワイで発行された日本語新聞や資料で当時の様子を紹介しました。
JICA横浜、頑張っていますね。
海外移住の日の雑学
▽ドミニカ移住訴訟
1950年代に国策でドミニカ共和国に移住した1300人の8割が5年後に帰国してしまいました。
これは農耕地に適さない土地であることを日本政府が隠して募集したためで、国は2000年に提訴されたものの時効が成立していました。
しかし、だからといって済む話ではなく、国は謝罪し200万円の見舞金の形で決着しています。
▽現代移住事情
もう海外へ集団移住する時代ではありませんが、個人や家族単位での移住は増えているようです。
東日本大震災での放射能問題や、不安が高まる南海トラフなどのため、日本を脱出して海外へ生活基盤を移す富裕層が現れました。
次いで、日本でもらう年金なんてそう多くないため、物価の安い東南アジアに着目、
そこで余生を過ごす計画ですね。
また、海外の文化に直接触れて、自分の新しい可能性に挑戦したいという若者の移住も増えています。
言葉や習慣の違いを克服し、毎日の様子を綴ったブログからは楽しく過ごす様子が伺えますが、それでも日本食が恋しいといった悩みは共通項のようですね。
■まとめ
時折、南北米大陸のニュースに登場する大統領や知事などの偉い人の名前を見て、アレッと思いますが、よく聞けば日系3世や4世なんですね。
今は日本が移民を受け入れる立場になりました。
遠くブラジルに渡って、言語や文化の違いに苦労した祖先を思い起こし、同じことを新たな移民に背負わせないよう努力する国でありたいと思います。
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